#03 「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」—バカが勝手に暴れて、勝手に自滅した 名探偵ポワロ
The Adventure of Johnnie Waverly (22 January 1989)
Hercule Poirot: DAVID SUCHET
Captain Hastings: HUGH FRASER
Chief Inspector Japp: PHILIP JACKSON
Miss Lemon: PAULINE MORAN
すべての事件を5通りの方法で相互参照できるという、ミス・レモンの“完璧なファイリング・システム”。なにがどうなってるのかサッパリわかんないけどすごいね。あんなに複雑なシステムはミス・レモンにしか使いこなせそうにありません。それがまさか、後々あんなことになるなんて…。考えるだけで恐ろしい。
ヘイスティングスが「誘拐?イギリスで?」って驚いてたけど、どういうことなんでしょうか。このシリーズを観る限り、1930年代の英国ってそんなに治安がいいようには思えないんだけどな。
このページは名探偵ポワロ「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」を観た方に向けて書かれていて、事件の核心、犯人、動機、結末、オチ、ギャグなどに触れます。ですのでドラマ本編をご覧になったあとにお読みください。
このブログがはじめての方は 「ポワロと灰色の脳細胞」について からぜひ。
あらすじや解説はこちらでどうぞ。
●名探偵ポワロ徹底解説
●「名探偵ポワロ」データベース
●旅行鞄にクリスティ
もしヘイスティングスがただの車バカじゃなくてそれなりの知識を持った車好きだったら、あの音聞いてすぐピンときたと思うな。てゆうかそもそも、突然エンジンが止まったらまずはガス欠を疑うのが基本だけど。「あー、たぶんそうだ。誰かが細工をしたんですよ!」「キャブレターに異常はないですねえ」じゃねえよ。早く気づけよ。でもグリルに馬の蹄鉄を飾ったりして車に愛情注いでる感じは好きだよ、ヘイスティングス。
Wikipedia によると1930年からはスーパーチャージャー搭載モデルが追加されたみたいだけど、ヘイスティングスのはどうだったんだろう。80mphで75分も巡航してたらしいから搭載されてたと見るのが妥当かな。彼の愛車にご興味がある方、たくさん写真をご覧になりたい方は IMCDB でお楽しみください。余談ですがこのIMCDBはヤバいです。世界中の映画オタクと車オタクが手を取り合って、あらゆる映画・TVドラマに出てきた車の、車名や年式をかたっぱしから同定していくサイトです。情報の量と正確さがハンパない。“すごい”を通り越してもはや不気味です。今回のエピソードでいえば、ジョニーが遊んでた赤いおもちゃの車でさえも身元があぶり出されてます。The Meccano Motor Car Constructor Sets made from about 1932 ですってよ。ほらね?不気味でしょ?
ラゴンダが動かなくなったせいで、足を引きずりながら小走りでお屋敷へと急ぐポワロさん。
あ!車が来た!乗せてほしい!→颯爽と振り返りビシッと挙手!→「プップー」車は止まらず通過
ここ、シリーズ屈指の爆笑シーンでした。去りゆく車を見送るポワロさんの、怒りと憎しみに満ちたあの顔が最高です。いつ思い出しても笑っちゃう。
そういえばヘイスティングスがル・マン24時間レースに出るって話はどうなったんだろう。ラゴンダが1935年のル・マンで優勝した史実に鑑みれば随一の強豪チームから招かれたわけで、出場すればかなり好成績が期待できるはず。あれ以来まったく話題にあがらないってことは、ポシャったのかな…。だとしたらとっても残念。
キドニーを原語では"devilled kidneys"っていってました。デヴィルド・キドニーはマスタード、ウスターソースなどでスパイシーに味付けした仔羊のキドニー(仔牛、うさぎの場合もアリ)をバターでソテーする、英国式朝食の定番料理。がっつりパンチが効いてて茶色くて美味しいです。 トーストにのせて食べることが多いようです。レシピを知りたい方は BBC Food や 196 flavors をご覧ください。
飲み物は自家製ビール。こちらは原語で"a nice pint of home brew"っていってました。ちっちゃいグラスでペロっと味見するんじゃありません。パイント、つまり568ml。かなりしっかり召し上がりました。そりゃあ帰り道で陽気に歌いたくもなるよね。
2人が朝食を楽しむ姿がまったく描かれなかったのは大いに不満です。制作陣に断固抗議したい。美味しそうな料理と2人の笑顔を見たかったし、トマトやキノコや豆…色とりどりの付け合わせも見たかったよ。カツ1枚とジャガイモだけの貧相な晩餐のシーンなんてカットしていいよ。でもこの朝食を映すのはマストだったと思うな。
いつもは銀のブーケ型ブローチにお花を添えてるポワロさん。今回はなんと、庭で摘んだ白いお花を襟のボタンホールに直接挿してました。あのポワロさんのニコニコ顔を見るとこちらまでうれしくなります。ポワロさんの粋な姿が立て続けに見られて興奮を抑えきれません。ほかにもタキシード、ウェイバリー家の紋章入りスリッパ、ペイズリー柄のガウン、暗がりでしたがパジャマ姿まで登場して、見所がたくさんなおしゃれ回でした。ライトグレーのブランニュー3ピースも見逃せませんよ。
「100件ですか?」「毎日ですか?」
話を盛ったらポワロさんに速攻で見破られたジャップ警部。推理はいつも的外れだけど実直な性格だから仕事は丁寧で抜かりない。それが彼のいいところ。でも今回はやらかしちゃいましたね。「茂みに潜んでいた男を捕まえました!」の報に、あわてて部屋を飛び出しました。“単純な田舎紳士”ことウェイバリーと一緒に。いけませんねえ。あの瞬間、観客は全員心の中で「ジョニーから目を離しちゃダメ!」って叫んだよね。男はお巡りさんたちが取り押さえてるんだから急ぐ必要はまったくなかったんです。しかも“愚の骨頂”ことウェイバリーが使い物にならないのは明らかなので、ジャップ警部はどんなことが起きてもジョニーの安全確保を最優先しなきゃいけない立場でした。うーん、らしくないよなあ。あとからこの顛末を聞いたポワロさんもずっこけたはず。
「オ、オラぁ文無しじゃねえぞ。ちゃんと10シリング持ってる!」
いやいや、その10シリングって、包みをお屋敷に届けるかわりにさっきもらったばっかりのお駄賃でしょ?ってことはやっぱり実質文無しの浮浪者じゃん。逮捕されたくない気持ちはよくわかるよ。でも1秒でバレる嘘ついてもダメだって。可愛げがあって面白いけど。判事も笑って許してくれるといいなあ。
ポワロさんのこの言葉にすべて集約されてますね。あらゆる証拠や出来事が一斉に“身内が犯人”ってことを示してる。簡単にいえば、はじめからバレてる。なのにウェイバリーはなぜこの計画を実行したのか。それはバカだから。そしてバレるリスクが高くなるのに、なぜ事前にポワロさんに相談したのか。それはバカだから。もうね、いろいろお粗末すぎて。
お屋敷に着いてすぐ、ウェイバリーがエイダ夫人に「ハーキュリーズ・ポワロさんだ」と間違えて紹介したときに、ポワロさんが「ベルギー風にいえばエルキュールです」って優しく訂正してたのにすごく違和感がありました。普段名前や国籍を間違えられたり、有名な探偵と知られていないとわかったときには、欠かさず不快感をあらわにし、ときには怒りだすポワロさんが、優しい。いまから思い返すと、ポワロさんはあの時点で気づいていたのかもしれませんね。ウェイバリーはバカだと。叱っても嫌味や皮肉をいってもバカには伝わらない、優しく訂正する以外に方法がない、っていう境地だったのかも。
事件が解決したあと、ポワロさんはウェイバリーに「あなたならジョニーを連れて帰る上手い理由を考えるのに苦労なさらんでしょう」なんていってたけど、実際にはそんなの無理って知ってたはず。だってジョニーは乳母のジェシーにさらわれて、そのあともずっと彼女と一緒にいたんだよ?これ、致命的。ジョニーはどんなに口止めされてても、ママにだっこされて優しく「誰といたの?」って聞かれたら元気に「ジェシーと一緒にコテージにいたんだ!」って答えるよ。絶対だよ。こどもってそういう生き物じゃん。もしウェイバリーが夫人やジャップ警部を納得させられる“上手い理由”を考えついたとしても(いや、それも無理だとは思うけど)、ジョニーがしゃべってハイおしまい。ジャップ警部のハッタリが速攻で見破られたように、浮浪者ロジャースの嘘が1秒でバレたように、ウェイバリーの犯行もあっさりと白日の下にさらされます。この計画はスタートから超グズグズだけど、ジェシーを実行犯にした時点で完璧に破綻してるんだよ。
ウェイバリーはどんな結末を思い描いてたんでしょう。万事上手くいって莫大な身代金を手に入れたとして、どうやってジョニーを開放し、どうやって口止めし、どうやって白を切るつもりだったんだ?超謎。エイダ夫人の今後を想像するといたたまれません。ウェイバリーと別れてジョニーと家を出るのか、それとも別れずにあそこで暮らし、バカがまた暴走しないように見張り続ける生涯を送るのか。どっちにしても苦労が絶えないはず。救いようのないバカを亭主に持つと地獄だね。
良い犯人か悪い犯人か、なんて語る気にもならないよ。もしこのシリーズ全体を通して“悪い犯人ランキング”を作るとしても、残念ながらウェイバリーはランクインできません。バカ過ぎるから味噌ッカスです。あ、でも“ダメな犯人ランキング”ならぶっちぎりの1位だね。おめでとうございます。
Hercule Poirot: DAVID SUCHET
Captain Hastings: HUGH FRASER
Chief Inspector Japp: PHILIP JACKSON
Miss Lemon: PAULINE MORAN
すべての事件を5通りの方法で相互参照できるという、ミス・レモンの“完璧なファイリング・システム”。なにがどうなってるのかサッパリわかんないけどすごいね。あんなに複雑なシステムはミス・レモンにしか使いこなせそうにありません。それがまさか、後々あんなことになるなんて…。考えるだけで恐ろしい。
ヘイスティングスが「誘拐?イギリスで?」って驚いてたけど、どういうことなんでしょうか。このシリーズを観る限り、1930年代の英国ってそんなに治安がいいようには思えないんだけどな。
このページは名探偵ポワロ「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」を観た方に向けて書かれていて、事件の核心、犯人、動機、結末、オチ、ギャグなどに触れます。ですのでドラマ本編をご覧になったあとにお読みください。
このブログがはじめての方は 「ポワロと灰色の脳細胞」について からぜひ。
あらすじや解説はこちらでどうぞ。
●名探偵ポワロ徹底解説
●「名探偵ポワロ」データベース
●旅行鞄にクリスティ
ヘイスティングスの愛車:1931年型 Lagonda 14/60
3話目にして早くもラゴンダが大活躍!肝心なときに動かなくなっちゃったけど。いや、お話の中心にラゴンダがいることが重要なんですよ。ヘイスティングスがポワロさんと楽しくマザーグースを歌いながら飲酒運転する場面は2人のかわいさも必見なんだけど、個人的にはラゴンダの排気音がときめきポイントでした。4気筒ツインカムエンジンの奏でる音色が。僕は実物のラゴンダを見たことがないし、だから音を聞いたこともないんで、あれがリアルかどうかはわかりません。でもあのシーンで聞こえていた音がクラシックでスポーティだったってことは感じとれます。音響マンがかなりこだわって作ったサウンドなんじゃないかな。エンジンが止まっちゃうときの音の変化もホントに素晴らしい。いかにもガス欠って感じで。もしヘイスティングスがただの車バカじゃなくてそれなりの知識を持った車好きだったら、あの音聞いてすぐピンときたと思うな。てゆうかそもそも、突然エンジンが止まったらまずはガス欠を疑うのが基本だけど。「あー、たぶんそうだ。誰かが細工をしたんですよ!」「キャブレターに異常はないですねえ」じゃねえよ。早く気づけよ。でもグリルに馬の蹄鉄を飾ったりして車に愛情注いでる感じは好きだよ、ヘイスティングス。
Wikipedia によると1930年からはスーパーチャージャー搭載モデルが追加されたみたいだけど、ヘイスティングスのはどうだったんだろう。80mphで75分も巡航してたらしいから搭載されてたと見るのが妥当かな。彼の愛車にご興味がある方、たくさん写真をご覧になりたい方は IMCDB でお楽しみください。余談ですがこのIMCDBはヤバいです。世界中の映画オタクと車オタクが手を取り合って、あらゆる映画・TVドラマに出てきた車の、車名や年式をかたっぱしから同定していくサイトです。情報の量と正確さがハンパない。“すごい”を通り越してもはや不気味です。今回のエピソードでいえば、ジョニーが遊んでた赤いおもちゃの車でさえも身元があぶり出されてます。The Meccano Motor Car Constructor Sets made from about 1932 ですってよ。ほらね?不気味でしょ?
ラゴンダが動かなくなったせいで、足を引きずりながら小走りでお屋敷へと急ぐポワロさん。
あ!車が来た!乗せてほしい!→颯爽と振り返りビシッと挙手!→「プップー」車は止まらず通過
ここ、シリーズ屈指の爆笑シーンでした。去りゆく車を見送るポワロさんの、怒りと憎しみに満ちたあの顔が最高です。いつ思い出しても笑っちゃう。
そういえばヘイスティングスがル・マン24時間レースに出るって話はどうなったんだろう。ラゴンダが1935年のル・マンで優勝した史実に鑑みれば随一の強豪チームから招かれたわけで、出場すればかなり好成績が期待できるはず。あれ以来まったく話題にあがらないってことは、ポシャったのかな…。だとしたらとっても残念。
英国式の朝食をゆったりと
ウェイバリー家で供された朝食はヘイスティングスにいわせればインド式らしいけど、見た感じはインドの要素ゼロでしたよね。お米のサラダなのかお粥なのか、白っぽい料理でした。インド式って聞くと僕ら日本人は黄色いカレー風味を想像することが多いと思うけど、彼にとってはお米こそがインドのイメージみたいです。で、その朝食があまりにショボかったので、町に出た2人。一応体裁を保つために出入りの大工さんに聞き込みなんかしてたけど、口直しに英国式の朝食を食べたくて出掛けたのは明らかです。ポワロさんはこのときすでに、犯人は少なくともウェイバリー家の身内で、ジョニーに危害が加えられることはないってわかってたようです。なので仕事はそっちのけですっかり旅気分。緑の溢れる爽やかな庭園で食べる朝食はさぞかし美味しかったことでしょう。ポワロさんがオーダーしたのはスクランブルエッグ、ソーセージ、キドニー、ベーコン(カリカリ)。正統なフル・ブレックファストですね。キドニーを原語では"devilled kidneys"っていってました。デヴィルド・キドニーはマスタード、ウスターソースなどでスパイシーに味付けした仔羊のキドニー(仔牛、うさぎの場合もアリ)をバターでソテーする、英国式朝食の定番料理。がっつりパンチが効いてて茶色くて美味しいです。 トーストにのせて食べることが多いようです。レシピを知りたい方は BBC Food や 196 flavors をご覧ください。
飲み物は自家製ビール。こちらは原語で"a nice pint of home brew"っていってました。ちっちゃいグラスでペロっと味見するんじゃありません。パイント、つまり568ml。かなりしっかり召し上がりました。そりゃあ帰り道で陽気に歌いたくもなるよね。
2人が朝食を楽しむ姿がまったく描かれなかったのは大いに不満です。制作陣に断固抗議したい。美味しそうな料理と2人の笑顔を見たかったし、トマトやキノコや豆…色とりどりの付け合わせも見たかったよ。カツ1枚とジャガイモだけの貧相な晩餐のシーンなんてカットしていいよ。でもこの朝食を映すのはマストだったと思うな。
本日のおしゃれ
一番のトピックは、ポワロさんが仕事のときにいつも持ってる銀の白鳥の杖に、はじめてスポットライトが当てられたこと。ヘイスティングスが車を急発進させたとき、ポワロさんは帽子が飛ばされないように白鳥のおしりでつばをおさえました。杖が画面の主役になった瞬間です。そうそう!こういう粋で洒落た演出を待ってたんだ!いつもは銀のブーケ型ブローチにお花を添えてるポワロさん。今回はなんと、庭で摘んだ白いお花を襟のボタンホールに直接挿してました。あのポワロさんのニコニコ顔を見るとこちらまでうれしくなります。ポワロさんの粋な姿が立て続けに見られて興奮を抑えきれません。ほかにもタキシード、ウェイバリー家の紋章入りスリッパ、ペイズリー柄のガウン、暗がりでしたがパジャマ姿まで登場して、見所がたくさんなおしゃれ回でした。ライトグレーのブランニュー3ピースも見逃せませんよ。
ジャップ警部の失敗
「毎日こういう事件は100件も起こってる」「100件ですか?」「毎日ですか?」
話を盛ったらポワロさんに速攻で見破られたジャップ警部。推理はいつも的外れだけど実直な性格だから仕事は丁寧で抜かりない。それが彼のいいところ。でも今回はやらかしちゃいましたね。「茂みに潜んでいた男を捕まえました!」の報に、あわてて部屋を飛び出しました。“単純な田舎紳士”ことウェイバリーと一緒に。いけませんねえ。あの瞬間、観客は全員心の中で「ジョニーから目を離しちゃダメ!」って叫んだよね。男はお巡りさんたちが取り押さえてるんだから急ぐ必要はまったくなかったんです。しかも“愚の骨頂”ことウェイバリーが使い物にならないのは明らかなので、ジャップ警部はどんなことが起きてもジョニーの安全確保を最優先しなきゃいけない立場でした。うーん、らしくないよなあ。あとからこの顛末を聞いたポワロさんもずっこけたはず。
浮浪罪なんて法律があるんだ こわ…
茂みで捕らえられた浮浪者ロジャースがいい味出してましたね。ハの字まゆ毛と吹き替えのヘナチョコな声が合ってて愛嬌があります。浮浪罪で連行するぞとジャップ警部に脅されて、返した言葉がいい。「オ、オラぁ文無しじゃねえぞ。ちゃんと10シリング持ってる!」
いやいや、その10シリングって、包みをお屋敷に届けるかわりにさっきもらったばっかりのお駄賃でしょ?ってことはやっぱり実質文無しの浮浪者じゃん。逮捕されたくない気持ちはよくわかるよ。でも1秒でバレる嘘ついてもダメだって。可愛げがあって面白いけど。判事も笑って許してくれるといいなあ。
事件の真相 バカな亭主を持つと地獄
「どうして犯人はウェイバリー家に事前に誘拐を警告したか。まったく、簡単なことをわざと難しくしたという事実は変わりません。犯行の日時を特定しなければ簡単にやれるんです。乳母と2人で外に出るときを待ち伏せして、車でこどもを連れ去ればいい。」ポワロさんのこの言葉にすべて集約されてますね。あらゆる証拠や出来事が一斉に“身内が犯人”ってことを示してる。簡単にいえば、はじめからバレてる。なのにウェイバリーはなぜこの計画を実行したのか。それはバカだから。そしてバレるリスクが高くなるのに、なぜ事前にポワロさんに相談したのか。それはバカだから。もうね、いろいろお粗末すぎて。
お屋敷に着いてすぐ、ウェイバリーがエイダ夫人に「ハーキュリーズ・ポワロさんだ」と間違えて紹介したときに、ポワロさんが「ベルギー風にいえばエルキュールです」って優しく訂正してたのにすごく違和感がありました。普段名前や国籍を間違えられたり、有名な探偵と知られていないとわかったときには、欠かさず不快感をあらわにし、ときには怒りだすポワロさんが、優しい。いまから思い返すと、ポワロさんはあの時点で気づいていたのかもしれませんね。ウェイバリーはバカだと。叱っても嫌味や皮肉をいってもバカには伝わらない、優しく訂正する以外に方法がない、っていう境地だったのかも。
事件が解決したあと、ポワロさんはウェイバリーに「あなたならジョニーを連れて帰る上手い理由を考えるのに苦労なさらんでしょう」なんていってたけど、実際にはそんなの無理って知ってたはず。だってジョニーは乳母のジェシーにさらわれて、そのあともずっと彼女と一緒にいたんだよ?これ、致命的。ジョニーはどんなに口止めされてても、ママにだっこされて優しく「誰といたの?」って聞かれたら元気に「ジェシーと一緒にコテージにいたんだ!」って答えるよ。絶対だよ。こどもってそういう生き物じゃん。もしウェイバリーが夫人やジャップ警部を納得させられる“上手い理由”を考えついたとしても(いや、それも無理だとは思うけど)、ジョニーがしゃべってハイおしまい。ジャップ警部のハッタリが速攻で見破られたように、浮浪者ロジャースの嘘が1秒でバレたように、ウェイバリーの犯行もあっさりと白日の下にさらされます。この計画はスタートから超グズグズだけど、ジェシーを実行犯にした時点で完璧に破綻してるんだよ。
ウェイバリーはどんな結末を思い描いてたんでしょう。万事上手くいって莫大な身代金を手に入れたとして、どうやってジョニーを開放し、どうやって口止めし、どうやって白を切るつもりだったんだ?超謎。エイダ夫人の今後を想像するといたたまれません。ウェイバリーと別れてジョニーと家を出るのか、それとも別れずにあそこで暮らし、バカがまた暴走しないように見張り続ける生涯を送るのか。どっちにしても苦労が絶えないはず。救いようのないバカを亭主に持つと地獄だね。
良い犯人か悪い犯人か、なんて語る気にもならないよ。もしこのシリーズ全体を通して“悪い犯人ランキング”を作るとしても、残念ながらウェイバリーはランクインできません。バカ過ぎるから味噌ッカスです。あ、でも“ダメな犯人ランキング”ならぶっちぎりの1位だね。おめでとうございます。
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