#08 「なぞの盗難事件」—ヤツがわしのデザートを盗ったぞ! 名探偵ポワロ
The Incredible Theft (26 February 1989)
Hercule Poirot: DAVID SUCHET
Captain Hastings: HUGH FRASER
Chief Inspector Japp: PHILIP JACKSON
Miss Lemon: PAULINE MORAN
"MAYFIELD"の巨大なタイポグラフィが美しい飛行場の格納庫。その前に並ぶ2台の高級英国車、モーリスとロールスロイス。実に画になりますなあ。そして格納庫のでっかい扉が開き、ゆっくりと戦闘機が姿を現します。片側6本の排気管が唸りをあげてプロペラが回った瞬間、かっこよすぎて卒倒するかと思いました。年代物の飛行機の離陸準備やアクロバティックなフライトの映像は眺めるだけでうれしくなります。
このページは名探偵ポワロ「なぞの盗難事件」を観た方に向けて書かれていて、事件の核心、犯人、動機、結末、オチ、ギャグなどに触れます。ですのでドラマ本編をご覧になったあとにお読みください。
あらすじや解説はこちらでどうぞ。
飛行場のかっこいい映像なんてすっかり忘れちゃうほどバンダリン夫人がステキでした。美人でスタイルがよく、社交的で聡明で駆け引きに長けていて、ブリッジが強い。人の心を翻弄する条件が揃ってます。自信満々で堂々としたオーラも魅力的で悪役にしておくのはもったいない。いや、悪い女だからこそ惹きつけられるのか。
登場シーンのインパクトがすごかった。レディ・マーガレット・メイフィールドやサー・ジョージ・キャリントンが異様に怯えているという前フリが効いていて、どんな悪女が出てくるのかと期待が高まる中、ギラギラ、ラメラメで背中が大きく開いたドレスで颯爽とお出まし。階段の下から見上げるカメラワークとあいまって神々しさすら漂って「この場を支配するのはあたくしよ」といわんばかりです。で、実際に一瞬で場の空気を変えてしまいました。負けてなるものかとレディ・マーガレットが精一杯の皮肉で攻撃を仕掛けますが、夫人はどこ吹く風。ダメージはゼロです。
“警察までご同行”を願われたときのお召し物はタイトなグレーのセットアップスーツ。大きな黒いハットを斜めに被り、超長いフォックスファーを肩にかけていました。色味こそ落ち着いて見えますが、内から溢れ出す華やかさで男たちを圧倒します。このときもカメラは見上げのアングルで、彼女こそがゲームメーカーであると誇示するかのよう。国防大臣とジャップ警部の負けは、この時点でもう決まってたみたいです。
翌朝は自身の潔白を証するかのように、スーツ、ハットからファー、アクセサリーにいたるまで、全身真っ白で現れました。映画「氷の微笑」のシャロン・ストーンを思い出します。彼女も白のドレスで取り調べに臨み、潔白を主張して刑事たちを手玉に取りました。美しい悪女が純白を身にまとったときは気をつけなきゃいけません。騙されてひどい目にあいますよ。
ドイツ大使公邸に向かう車内では、奇麗に結われたツヤツヤの黒髪が何度もフォーカスされます。危険なミッションに当たるときも身だしなみに一切手を抜かない姿勢、かっこいいなあ。
IMCDB によると夫人が乗っていた高級サルーンはパッカードでした。駐英アメリカ大使の娘が英国車に乗るわけがないじゃないか、と暗に主張しています。右ハンドルのパッカードを用意するのは簡単じゃなかったはず(もちろん当時の英国車を手配するのだって楽じゃないでしょうけど、右ハンドルのアメリカ車は圧倒的に数が少ないので…)。でも英国車でお茶を濁すようなことはしません。こういう細かい部分にお金と労力を惜しまないところも、「名探偵ポワロ」の世界観に説得力がある理由のひとつだと思います。
国防大臣サー・ジョージに急かされるがまま夫人の部屋にやってきたジャップ警部。ドアが開いた瞬間に顔がパァっと明るくなりました。実際には部屋の明かりが顔に差したというだけのことなんですが、その光の変化がジャップ警部の情動を見事に表現していました。髪を下ろしたナイトウエア姿の夫人に目を奪われたんです。一瞬で心が華やいだんです。映像でしか表現できない甘美な描写に思わず唸ってしまいました。今回の制作陣はカメラ、衣装、照明…あらゆる手段で象徴的な演出を仕掛けてきますね。
地元の警察署。入口のドアに "FEMALE STAFF ONLY"と注意書きがされた取り調べ室で、女性警察官によるバンダリン夫人の身体検査がされています。中には入れないのでドアの前で待つジャップ警部。そのドアにはめられた曇りガラスに、ぼんやりと夫人のシルエットが映りました。服をすべて脱いでいるんでしょう、彼女の肌の色は鮮明にわかります。それに気づいたジャップ警部の目が笑っちゃうくらいキュートでした。歳相応のおじさん臭いスケベな目じゃないんです。少年が密かに憧れている女の子に向けるような、ドギマギした目なんです。もう甘酸っぱすぎます。彼の顔を見てたら、自分のこどものころを思い出しました。大好きだったジャッキー・チェンが主演の映画「スパルタンX」のワンシーンに、謎の美女シルビアがシャワーを浴びている影がカーテンに映る、という描写がありました。シルエットだけでおっぱいもおしりもまったく見えないんだけど、当時の僕は猛烈にドキドキしたんです。そのときの僕はたぶん取り調べ室の前にいるジャップ警部と同じ目をしてたと思います。逆にいうとジャップ警部は小学生男児と同じマインドだったってことですね。
はじめて見た夫人の美しさにポーっとし、服を脱いだ夫人を思い浮かべて胸を高鳴らせるジャップ警部、いやジャップ少年。どんだけ純情なんだよ。
しかもただ速いだけじゃ終わりません。猛スピードで飛ばしながら、地図を広げるポワロさんに的確な指示を出し、これから通るルートを頭の中で整理して、ついにはズバリ夫人の行き先を探り当てました。あんなに高回転でマルチタスクなヘイスティングスは見たことない。ハンドルを握ると能力が格段に上がるんですね。もうずっと運転してたらいいよ。
にしても、ここぞっていう見せ場になるはずだったのに、ラゴンダが故障中だったのは不運でしたね(いや、むしろ普段通りか?「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」でもいざってときにガス欠で使い物にならなかったし)。ラゴンダがあのカントリーロードを激走する姿、見たかったなあ。もしかしたら希少で高価なラゴンダでカーチェイスをするのは、オーナーから許可してもらえなかったのかもしれませんね。だから故障したっていうストーリーにして、フォードの代役を立てたのかも。もちろんフォードだってすごく貴重な車だけどラゴンダに比べればお手頃だから。でも逆に考えるとフォードだったからこそ、エンジンを目一杯にぶん回して、お尻を滑らせながら縁石ギリギリを駆け抜けるような、あんなに迫力あるカットが撮れたような気がします。もしラゴンダで撮ってたら、壊すのが怖くてもっと大人しい走行シーンになってたんじゃないかな。そう思って見返すと…うん、やっぱり。パッカードはフォードに比べてかなり丁寧な運転をしてました。編集が巧みだから全然気にならないようにはなってたけど。フォードで派手な追走劇が撮れたから結果的には大成功ですね。
宿でのんきに英国式朝食を食べるヘイスティングスに心癒されます。
メイフィールドからしたら「ホントは日本に武器売っちゃダメだったのに、売っちゃったんだよね。それが前に新聞に書かれちゃってさ。バレそうになってマジヤバかったんだけど、国防大臣たちが裏でイロイロやってくれてギリごまかせたんだよ。まだあんときのことをゴチャゴチャいってるヤツがいてすげーウゼーけど。いまは証拠の文書を回収したからもう大丈夫。世間でギャーギャーいわれる心配なくなったし。議会のうるせーヤツらも黙るっしょ。え?もしバレてたら?そりゃもう議会や国防省から完全に干されて、商売できなくなって破産じゃね?ありえないよねー。いやマジ危なかったよ。助かったー。これからは戦闘機たくさん売って大儲けしまーす!」って話でしょ?それ、普通にダメじゃん。メイフィールドは社会的に制裁を受けなきゃいけない人じゃん。
国家の安全って視点で見ると「メイフィールドが開発した戦闘機ケストレルは国防の切り札になるはず。日本に武器を売った事実が表に出ればメイフィールドは非難され信用を失う。そうなると軍はケストレルを採用できなくなる。結果、来るべきドイツとの戦争で不利になって、国民の生命が危機にさらされる。それは絶対に避けなければいけない。安全を確保するために国防省は汚い手段を使ってもメイフィールドを守る」っていう思考は理解できます。劇中でケストレルとして描かれた戦闘機、スピットファイアの活躍によって、英国が第二次大戦を有利に戦った史実を見れば、その判断が正しいとも思えます。でも…釈然としないんです。日本の件が明らかになったらメイフィールドも国防大臣もいまの立場を失って大損害を被るのは確実なんだから、自分の保身のために大義を利用しているともいえるわけで。それって権力者の常套手段じゃん。じゃあどうすればいいの?って聞かれてもどう答えたらいいかわかんないけど、めでたしめでたしではないよね…。
ちょっと話はそれますが、ドイツはバンダリン夫人から受け取った計算書が偽物だってすぐに気づくよね。たぶん数日でわかるはず。メイフィールドの秘書は「半年は気づかない」みたいなことをうれしそうにいってたけど、ありえない。実際に計算書自体は間違いを明らかにするまで半年かかるくらい巧妙に偽装されてるのかもしれません。でもちょっと視野を広げれば、重要機密を盗まれたはずのメイフィールドがまったく叱責されていない事実に気づきます。「あれ?アイツなんで怒られてないの?…ああそうか、チクショウ騙された。この計算書、パチモンだなコリャ」って感じで瞬殺です。計算書の内容なんて関係なく、偽物なことは簡単にバレます。それが予測できなかった秘書はきっと出世もできないタイプでしょうね。解明に半年かかる複雑な偽物を作るために、彼がどれだけエネルギーを費やしたのかしらないけど、そんなのは無駄な作業だってことに気づかないまま闇雲にガンバっちゃうのって、わりと致命的な気がします。
Hercule Poirot: DAVID SUCHET
Captain Hastings: HUGH FRASER
Chief Inspector Japp: PHILIP JACKSON
Miss Lemon: PAULINE MORAN
"MAYFIELD"の巨大なタイポグラフィが美しい飛行場の格納庫。その前に並ぶ2台の高級英国車、モーリスとロールスロイス。実に画になりますなあ。そして格納庫のでっかい扉が開き、ゆっくりと戦闘機が姿を現します。片側6本の排気管が唸りをあげてプロペラが回った瞬間、かっこよすぎて卒倒するかと思いました。年代物の飛行機の離陸準備やアクロバティックなフライトの映像は眺めるだけでうれしくなります。
このページは名探偵ポワロ「なぞの盗難事件」を観た方に向けて書かれていて、事件の核心、犯人、動機、結末、オチ、ギャグなどに触れます。ですのでドラマ本編をご覧になったあとにお読みください。
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あらすじや解説はこちらでどうぞ。
登場シーンのインパクトがすごかった。レディ・マーガレット・メイフィールドやサー・ジョージ・キャリントンが異様に怯えているという前フリが効いていて、どんな悪女が出てくるのかと期待が高まる中、ギラギラ、ラメラメで背中が大きく開いたドレスで颯爽とお出まし。階段の下から見上げるカメラワークとあいまって神々しさすら漂って「この場を支配するのはあたくしよ」といわんばかりです。で、実際に一瞬で場の空気を変えてしまいました。負けてなるものかとレディ・マーガレットが精一杯の皮肉で攻撃を仕掛けますが、夫人はどこ吹く風。ダメージはゼロです。
“警察までご同行”を願われたときのお召し物はタイトなグレーのセットアップスーツ。大きな黒いハットを斜めに被り、超長いフォックスファーを肩にかけていました。色味こそ落ち着いて見えますが、内から溢れ出す華やかさで男たちを圧倒します。このときもカメラは見上げのアングルで、彼女こそがゲームメーカーであると誇示するかのよう。国防大臣とジャップ警部の負けは、この時点でもう決まってたみたいです。
翌朝は自身の潔白を証するかのように、スーツ、ハットからファー、アクセサリーにいたるまで、全身真っ白で現れました。映画「氷の微笑」のシャロン・ストーンを思い出します。彼女も白のドレスで取り調べに臨み、潔白を主張して刑事たちを手玉に取りました。美しい悪女が純白を身にまとったときは気をつけなきゃいけません。騙されてひどい目にあいますよ。
ドイツ大使公邸に向かう車内では、奇麗に結われたツヤツヤの黒髪が何度もフォーカスされます。危険なミッションに当たるときも身だしなみに一切手を抜かない姿勢、かっこいいなあ。
IMCDB によると夫人が乗っていた高級サルーンはパッカードでした。駐英アメリカ大使の娘が英国車に乗るわけがないじゃないか、と暗に主張しています。右ハンドルのパッカードを用意するのは簡単じゃなかったはず(もちろん当時の英国車を手配するのだって楽じゃないでしょうけど、右ハンドルのアメリカ車は圧倒的に数が少ないので…)。でも英国車でお茶を濁すようなことはしません。こういう細かい部分にお金と労力を惜しまないところも、「名探偵ポワロ」の世界観に説得力がある理由のひとつだと思います。
ジャップ警部の純情
「ヤツがわしのデザートを盗ったぞ!」と寝言で叫ぶ、かわいいジャップ警部のお話を。といいつつも半分はバンダリン夫人の話の延長ですが。国防大臣サー・ジョージに急かされるがまま夫人の部屋にやってきたジャップ警部。ドアが開いた瞬間に顔がパァっと明るくなりました。実際には部屋の明かりが顔に差したというだけのことなんですが、その光の変化がジャップ警部の情動を見事に表現していました。髪を下ろしたナイトウエア姿の夫人に目を奪われたんです。一瞬で心が華やいだんです。映像でしか表現できない甘美な描写に思わず唸ってしまいました。今回の制作陣はカメラ、衣装、照明…あらゆる手段で象徴的な演出を仕掛けてきますね。
地元の警察署。入口のドアに "FEMALE STAFF ONLY"と注意書きがされた取り調べ室で、女性警察官によるバンダリン夫人の身体検査がされています。中には入れないのでドアの前で待つジャップ警部。そのドアにはめられた曇りガラスに、ぼんやりと夫人のシルエットが映りました。服をすべて脱いでいるんでしょう、彼女の肌の色は鮮明にわかります。それに気づいたジャップ警部の目が笑っちゃうくらいキュートでした。歳相応のおじさん臭いスケベな目じゃないんです。少年が密かに憧れている女の子に向けるような、ドギマギした目なんです。もう甘酸っぱすぎます。彼の顔を見てたら、自分のこどものころを思い出しました。大好きだったジャッキー・チェンが主演の映画「スパルタンX」のワンシーンに、謎の美女シルビアがシャワーを浴びている影がカーテンに映る、という描写がありました。シルエットだけでおっぱいもおしりもまったく見えないんだけど、当時の僕は猛烈にドキドキしたんです。そのときの僕はたぶん取り調べ室の前にいるジャップ警部と同じ目をしてたと思います。逆にいうとジャップ警部は小学生男児と同じマインドだったってことですね。
はじめて見た夫人の美しさにポーっとし、服を脱いだ夫人を思い浮かべて胸を高鳴らせるジャップ警部、いやジャップ少年。どんだけ純情なんだよ。
レディ・マーガレット・メイフィールドの功績
レディ・マーガレット・メイフィールドはバンダリン夫人を、国の安全を脅かす危険な女と見ていました。だからポワロさんに助けを求めたし、本人や周囲の人に敵意を隠しませんでした。でもそれはあくまでも対外的な口実。表情や言葉の端々からは夫人への嫉妬がありありと見えました。伯爵令嬢とアメリカ大使令嬢、社会的な“格”はどっちが上なのかよくわかりません。でも親の七光りで実業家を婿にとっただけの地味で陰気なレディ・マーガレットと、明るく人好きがして危険な香りもするバンダリン夫人、どっちが人を魅了するかは一目瞭然です。レディ・マーガレットは自分の評判や“格”が夫人よりも低いと感じつつ、でもそれを受け入れられずに、いつも話題の中心にいて華やかな夫人に嫉妬していました。人々の目が夫人に集まることが許せないようです。国の安全を守るなんていう理性的な思考じゃなくて、本能的な憎悪こそがモチベーションでした。なんてすばらしいんでしょう。隠したくても隠しきれずにこぼれ落ちるネガティブな感情には、とても人間味が感じられます。そしてその人間味には現実感があります。バンダリン夫人の極端なキャラクターはマンガ的で、ともすれば嘘っぽく陳腐な印象になってしまいそうです。でも人間味の溢れるレディ・マーガレットがそばにいて対比されることで、夫人の存在にも生き生きとした躍動やリアリティを感じられるようになりました。夫人が輝いて見えるのはレディ・マーガレットの功績が大きいと思います。“バンダリン夫人の引き立て役”としてとてもいい仕事をしましたね。こんなことをご本人が聞いたら、嫉妬のあまり憤死しちゃいそうですけど。ヘイスティングスの覚醒
寒空の下お屋敷の庭で放ったらかしにされたり、宿でジャップ警部のいびきや寝言に悩まされたりで、散々だったヘイスティングス。でもバンダリン夫人のパッカードを追って1937フォードを駆っているときはめちゃくちゃうれしそうでした。目がキラキラしてましたね。バックに掛かるテーマ曲はいつもよりピッチが早めで、見てるこっちの気分も高まります。フォードでパッカードに追いつけたのは、ひとえにヘイスティングスのドライビングテクニックのおかげ。排気量やパワーに差がありすぎて、普通じゃ考えられません。さすがル・マン出場チームに招かれただけのことはあります。プロレーサー並みの腕でした。しかもただ速いだけじゃ終わりません。猛スピードで飛ばしながら、地図を広げるポワロさんに的確な指示を出し、これから通るルートを頭の中で整理して、ついにはズバリ夫人の行き先を探り当てました。あんなに高回転でマルチタスクなヘイスティングスは見たことない。ハンドルを握ると能力が格段に上がるんですね。もうずっと運転してたらいいよ。
にしても、ここぞっていう見せ場になるはずだったのに、ラゴンダが故障中だったのは不運でしたね(いや、むしろ普段通りか?「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」でもいざってときにガス欠で使い物にならなかったし)。ラゴンダがあのカントリーロードを激走する姿、見たかったなあ。もしかしたら希少で高価なラゴンダでカーチェイスをするのは、オーナーから許可してもらえなかったのかもしれませんね。だから故障したっていうストーリーにして、フォードの代役を立てたのかも。もちろんフォードだってすごく貴重な車だけどラゴンダに比べればお手頃だから。でも逆に考えるとフォードだったからこそ、エンジンを目一杯にぶん回して、お尻を滑らせながら縁石ギリギリを駆け抜けるような、あんなに迫力あるカットが撮れたような気がします。もしラゴンダで撮ってたら、壊すのが怖くてもっと大人しい走行シーンになってたんじゃないかな。そう思って見返すと…うん、やっぱり。パッカードはフォードに比べてかなり丁寧な運転をしてました。編集が巧みだから全然気にならないようにはなってたけど。フォードで派手な追走劇が撮れたから結果的には大成功ですね。
宿でのんきに英国式朝食を食べるヘイスティングスに心癒されます。
本日のおしゃれ
飛行場、バンダリン夫人、カーチェイスと、目に楽しいシーンが続いた分、ポワロさんの影がいまいち薄かったのは残念です。そんな中、黒いエプロンを身に着けてエナメル靴を磨くポワロさんの姿は、ポワロここにあり!って感じで光ってました。几帳面なポワロさんらしく、小刻みに丁寧にワセリンを塗り込んでいましたね。久しぶりに前髪くるくるのミス・レモンを見れたのもよかったです。一件落着?
偽の計算書をバンダリン夫人に掴ませて“日本への武器売却に関する文書”を無事に回収してめでたしめでたし…で終わってますが、いやいや、ちょっと待って。メイフィールドからしたら「ホントは日本に武器売っちゃダメだったのに、売っちゃったんだよね。それが前に新聞に書かれちゃってさ。バレそうになってマジヤバかったんだけど、国防大臣たちが裏でイロイロやってくれてギリごまかせたんだよ。まだあんときのことをゴチャゴチャいってるヤツがいてすげーウゼーけど。いまは証拠の文書を回収したからもう大丈夫。世間でギャーギャーいわれる心配なくなったし。議会のうるせーヤツらも黙るっしょ。え?もしバレてたら?そりゃもう議会や国防省から完全に干されて、商売できなくなって破産じゃね?ありえないよねー。いやマジ危なかったよ。助かったー。これからは戦闘機たくさん売って大儲けしまーす!」って話でしょ?それ、普通にダメじゃん。メイフィールドは社会的に制裁を受けなきゃいけない人じゃん。
国家の安全って視点で見ると「メイフィールドが開発した戦闘機ケストレルは国防の切り札になるはず。日本に武器を売った事実が表に出ればメイフィールドは非難され信用を失う。そうなると軍はケストレルを採用できなくなる。結果、来るべきドイツとの戦争で不利になって、国民の生命が危機にさらされる。それは絶対に避けなければいけない。安全を確保するために国防省は汚い手段を使ってもメイフィールドを守る」っていう思考は理解できます。劇中でケストレルとして描かれた戦闘機、スピットファイアの活躍によって、英国が第二次大戦を有利に戦った史実を見れば、その判断が正しいとも思えます。でも…釈然としないんです。日本の件が明らかになったらメイフィールドも国防大臣もいまの立場を失って大損害を被るのは確実なんだから、自分の保身のために大義を利用しているともいえるわけで。それって権力者の常套手段じゃん。じゃあどうすればいいの?って聞かれてもどう答えたらいいかわかんないけど、めでたしめでたしではないよね…。
ちょっと話はそれますが、ドイツはバンダリン夫人から受け取った計算書が偽物だってすぐに気づくよね。たぶん数日でわかるはず。メイフィールドの秘書は「半年は気づかない」みたいなことをうれしそうにいってたけど、ありえない。実際に計算書自体は間違いを明らかにするまで半年かかるくらい巧妙に偽装されてるのかもしれません。でもちょっと視野を広げれば、重要機密を盗まれたはずのメイフィールドがまったく叱責されていない事実に気づきます。「あれ?アイツなんで怒られてないの?…ああそうか、チクショウ騙された。この計算書、パチモンだなコリャ」って感じで瞬殺です。計算書の内容なんて関係なく、偽物なことは簡単にバレます。それが予測できなかった秘書はきっと出世もできないタイプでしょうね。解明に半年かかる複雑な偽物を作るために、彼がどれだけエネルギーを費やしたのかしらないけど、そんなのは無駄な作業だってことに気づかないまま闇雲にガンバっちゃうのって、わりと致命的な気がします。
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