#12 「ベールをかけた女」—ドロンジョ様とドロボーのドタバタコント 名探偵ポワロ
The Veiled Lady (14 January 1990)
Hercule Poirot: DAVID SUCHET
Captain Hastings: HUGH FRASER
Chief Inspector Japp: PHILIP JACKSON
Miss Lemon: PAULINE MORAN
「騙されるんじゃないぞ、何ヶ月も追っていた凶悪犯だ。本名は誰も知らんのだ。通称狂犬と呼ばれている」
留置所のポワロさんを助けに来たジャップ警部がここぞとばかりにおちょくります。そしてそれを睨みつけるポワロさんの顔。今回はコメディ感の濃い…というか全編がコメディ一色で長編コントみたいな構成でした。
上流階級がモチーフになることが多いこのシリーズで、身分が低めの人たちがたくさん登場したのも今回の特徴です。犯人は思いっきり下層だし、住み込み家政婦のゴッドバー夫人は中流。留置所では一目でヤク中とわかるヘロヘロ娼婦まで映って、いつもとは違うテイストでした。1930年代のロンドンがいろんな視点で描かれるのを見るとウキウキします。
このページは名探偵ポワロ「ベールをかけた女」を観た方に向けて書かれていて、事件の核心、犯人、動機、結末、オチ、ギャグなどに触れます。ですのでドラマ本編をご覧になったあとにお読みください。
このブログがはじめての方は 「ポワロと灰色の脳細胞」について からぜひ。
あらすじや解説はこちらでどうぞ。
●名探偵ポワロ徹底解説
●「名探偵ポワロ」データベース
●旅行鞄にクリスティ
事前準備の錠前屋スタイルもヤバかった。いつもあんなにこだわってる髭を下ろしてまで徹底的に変装するのは、探偵のプロ意識?いやいや、お笑い根性でしょ。笑わそうとしたんでしょ?チャリンコ漕いでるだけでもう可笑しいもんね。手信号ビシッ!ってあんた…。このときバックに流れるメインテーマはいつもより弾んだ感じのコミカルな編曲でした。音楽スタッフまで動員して、新たにレコーディングまでして、本気で笑わせにきてます。ポワロさんは変装するときにチャリに乗ることにしてるんですかね。別のお話でもポワロさんが駐輪する場面を見た気がするけど…どのエピソードだったか思い出せません、すみません。あと「名探偵ポワロ」データベースでも触れられてますが、背景に映る白い家は「スズメバチの巣」で芸術家クロードが住んでた家でしたね。玄関のギザギザ模様が印象的だったので2回目に観たときに気がつきました。Seven Storeys High では画像で確認できます。
レディ・ミリセントことガーティがジャップ警部とご対面したときの一言。“バレた瞬間態度豹変”系の犯人は数多いますが、彼女の変わりようは屈指の出来です。ハスッパな感じがすごくいいなと思ったら、吹き替えの声はドロンジョ様ですって。なるほど堂に入ってます。んー、でも、もっとしっくりくるキャラがいる気がするぞ、と思って調べてみたらドロンジョ様=のび太なんですね。僕にとってはそっちの方が馴染みがありました。観てる間ずっと懐かしい感じがしてたのは、のび太の声が聞こえてたからみたい。とはいえ一度ドロンジョ様の声と知ると、しっくり過ぎてもうドロンジョ様としか思えません。声優さんの声って不思議です。原語の変わりようも聞き取れたらきっと楽しいだろうなあ。華麗なレディが突然コックニーでしゃべりだしたらそりゃウケるでしょ。
うしろで優しく微笑むジャップ警部も素敵。罪を憎んで人を憎まず的人情刑事の風情です。
ほのぼのチェイスですっかり和んじゃいましたが、よく考えるとラビントンことジョーイ・ウェザリーは本物のラビントンを殺してるんですよね…。そのジョーイが捕まるのって実はけっこう切迫した状況です。殺人は絞首台行きですもんね。共犯者のガーティにはどんな刑が下されるんでしょうか。やっぱり死刑?愛嬌のある犯人たちだからなんだかかわいそうです。あ、でも殺人はオランダで起きたんだから英国では裁かれないのかな?うん、よし、そういうことで2人は助かったってことにしときましょう。
ウィンブルドン警察もかっこよかったなあ。留置所の冷たくさみしい雰囲気、最高でしょ?白タイルに重い鉄の扉。前に登場した スコットランド・ヤードの科学捜査局 もそうだったけど、タイル張りの味気ない内装ってすごく惹かれます。煉瓦造りの外観も貫禄があっていい。華美な装飾がなくて一目でお役所とわかります。そこに停まっているのは、お! ハンバー・スナイプ じゃん!署の前だとひときわ様になりますねえ。ジャップ警部が専用車で直々にポワロさんを迎えにやって来ました。でもちょっと待って、ポワロさんって不法侵入の現行犯で捕まったんだよね?ちゃんとした手順を踏まずに放免されるなんて、さすが“実在の探偵の中で最もユニークで最高の探偵”ですなあ。
博物館のガーティは華やかでカッコよくて気丈さも感じられて、初対面のときと真反対の魅力が溢れてました。偽りの姿=おしとやかなレディ・ミリセントはグリーンを、本来の姿=快活なガーティは補色の赤を選んでたのには思わず唸りました。キャラクターのギャップを色の対比で見せる演出は、それ自体がすごく洒落てます。あの赤いワンピースはガーティのスタイルのよさも際立たせてましたね。へっぴり腰で逃げる間抜けな後姿でさえもシルエットが流麗でした。頭が良くて美人でモデルさんみたいなのに、やってるのはケチな強盗ってところもいいなあ。男を惑わして手玉に取る系の犯罪じゃなくて、泥臭い窃盗職人って感じがめっちゃ好感持てます。
一晩かけても中国製の小箱を開けられなかったくせに平気で「ぼかぁメカには強いんですけどねえ」とかいっちゃうボンクラ、ヘイスティングス。彼もなかなかのおしゃれさんなんですけど、いままでそこには触れずに過ごしてしまいました。カラフルな幾何学模様のチョッキとかカントリー風のツイードジャケットとか、見てないわけじゃなかったんだけどね。きっと僕の好みとちょっとズレてるからだと思います。ごめんなさい。今回のヘイスティングスは普段とちょっと違いました。中折れ帽を被ることが多い彼が、茶色のホンブルグハットを被ってたんです。けっこうレアだと思います。なにか心境の変化があったんでしょうか。それとも貴族の女性と会うときの単なる身だしなみ?中折れ帽は労働者っぽいイメージあるもんな。
ジャップ警部に留置所から助け出してもらったときのポワロさんの所持品は、洒落た指輪、眼鏡、そして髭用の櫛。財布や時計を持ち歩かないときでも髭用の櫛は身につけてるんですね。担当のお巡りさんもジャップ警部もあきれ顔でした。紳士とはこうあるべきなんでしょうか。残り少ない髪の毛はけっこう乱れてましたけど、それは気にしないでいいのかな?ジャップ警部とポワロさんが並んで映ると2人の真逆な個性がことさらに強調されて微笑ましいです。今回はそんなカットがたくさん見れました。いつも同じヨレヨレのコート姿でガニ股大股開きのジャップ警部と、シワのないスーツで姿勢よくぴっちり膝を閉じてるポワロさん。
Hercule Poirot: DAVID SUCHET
Captain Hastings: HUGH FRASER
Chief Inspector Japp: PHILIP JACKSON
Miss Lemon: PAULINE MORAN
「騙されるんじゃないぞ、何ヶ月も追っていた凶悪犯だ。本名は誰も知らんのだ。通称狂犬と呼ばれている」
留置所のポワロさんを助けに来たジャップ警部がここぞとばかりにおちょくります。そしてそれを睨みつけるポワロさんの顔。今回はコメディ感の濃い…というか全編がコメディ一色で長編コントみたいな構成でした。
上流階級がモチーフになることが多いこのシリーズで、身分が低めの人たちがたくさん登場したのも今回の特徴です。犯人は思いっきり下層だし、住み込み家政婦のゴッドバー夫人は中流。留置所では一目でヤク中とわかるヘロヘロ娼婦まで映って、いつもとは違うテイストでした。1930年代のロンドンがいろんな視点で描かれるのを見るとウキウキします。
このページは名探偵ポワロ「ベールをかけた女」を観た方に向けて書かれていて、事件の核心、犯人、動機、結末、オチ、ギャグなどに触れます。ですのでドラマ本編をご覧になったあとにお読みください。
このブログがはじめての方は 「ポワロと灰色の脳細胞」について からぜひ。
あらすじや解説はこちらでどうぞ。
●名探偵ポワロ徹底解説
●「名探偵ポワロ」データベース
●旅行鞄にクリスティ
コスプレポワロ
なんといってもドロボー姿のポワロさんとヘイスティングスが最高でした。暗闇で右往左往する時間が異様に長い。灰色の脳細胞に問いかける瞑想タイムまではじまっちゃって。力技で笑わせようとしてきます。そして極めつけはヘイスティングスのガラス窓ぶち破り&トンズラ。あんなにモッサリした脱出アクションは見たことありません。そこからさらに慌てるポワロさんと啖呵を切るゴッドバー夫人は、セリフ回しも表情も明らかにお笑いのそれです。もはや制作陣にはこれが探偵ドラマだってことを覚えてる人がいないみたい。僕ら観客もミステリーのことは一旦置いて笑いに身を委ねるしかありません。事前準備の錠前屋スタイルもヤバかった。いつもあんなにこだわってる髭を下ろしてまで徹底的に変装するのは、探偵のプロ意識?いやいや、お笑い根性でしょ。笑わそうとしたんでしょ?チャリンコ漕いでるだけでもう可笑しいもんね。手信号ビシッ!ってあんた…。このときバックに流れるメインテーマはいつもより弾んだ感じのコミカルな編曲でした。音楽スタッフまで動員して、新たにレコーディングまでして、本気で笑わせにきてます。ポワロさんは変装するときにチャリに乗ることにしてるんですかね。別のお話でもポワロさんが駐輪する場面を見た気がするけど…どのエピソードだったか思い出せません、すみません。あと「名探偵ポワロ」データベースでも触れられてますが、背景に映る白い家は「スズメバチの巣」で芸術家クロードが住んでた家でしたね。玄関のギザギザ模様が印象的だったので2回目に観たときに気がつきました。Seven Storeys High では画像で確認できます。
ドロンジョ様
「あー!チキショウ!ドジ踏んじまったよぅ!」レディ・ミリセントことガーティがジャップ警部とご対面したときの一言。“バレた瞬間態度豹変”系の犯人は数多いますが、彼女の変わりようは屈指の出来です。ハスッパな感じがすごくいいなと思ったら、吹き替えの声はドロンジョ様ですって。なるほど堂に入ってます。んー、でも、もっとしっくりくるキャラがいる気がするぞ、と思って調べてみたらドロンジョ様=のび太なんですね。僕にとってはそっちの方が馴染みがありました。観てる間ずっと懐かしい感じがしてたのは、のび太の声が聞こえてたからみたい。とはいえ一度ドロンジョ様の声と知ると、しっくり過ぎてもうドロンジョ様としか思えません。声優さんの声って不思議です。原語の変わりようも聞き取れたらきっと楽しいだろうなあ。華麗なレディが突然コックニーでしゃべりだしたらそりゃウケるでしょ。
うしろで優しく微笑むジャップ警部も素敵。罪を憎んで人を憎まず的人情刑事の風情です。
博物館でほんとのドロケイ(ケイドロ)
自然史博物館のドタバタでついに吹っ切りましたね。ミステリーの体裁は完全に崩れ去りました。なんせ事件の真相が明らかになったあとですから、緊迫感の欠片もありません。逃がすなあ!待てえ!って、制作陣のおふざけとしか思えない。遠足で来てたチビッコたちの列が邪魔でモタモタしてるポワロさんとジャップ警部を見てると気が遠くなります。しまいにはネコちゃんまで登場する始末。てゆうかなんで博物館にネコちゃんがいんだ?にゃ〜、じゃねえよ。終始おっとりとしたアクションシーンをお母さんみたいな心持ちで拝見しました。きっと学芸員さんたちも同じ気持ちだったと思います。「あんたたち!ドロケイするなら外でしなさい!」ほのぼのチェイスですっかり和んじゃいましたが、よく考えるとラビントンことジョーイ・ウェザリーは本物のラビントンを殺してるんですよね…。そのジョーイが捕まるのって実はけっこう切迫した状況です。殺人は絞首台行きですもんね。共犯者のガーティにはどんな刑が下されるんでしょうか。やっぱり死刑?愛嬌のある犯人たちだからなんだかかわいそうです。あ、でも殺人はオランダで起きたんだから英国では裁かれないのかな?うん、よし、そういうことで2人は助かったってことにしときましょう。
高級じゃない建築
上でもちょっと触れましたが、このお話のトピックは上流階級じゃない人たちがフォーカスされてることです。それは背景になる建築物も一緒で、由緒正しい貴族のお屋敷や最新のアール・デコ建築じゃなくて、様々な人が行き交うバーリントン・アーケードや博物館、中産階級のラビントン邸(実際には強請り専門のやくざ者でしたが)にスポットが当たってます。生活感というか日常感というか、いつもとはひと味違ったリアリティがありました。ラビントン邸の調度—椅子、机、タンス、花瓶、ランプはいかにも一般家庭風で興味深かったし、ゴッドバー夫人が銀食器を磨く地下室の様子も見てて楽しい。ピカール的な研磨剤の瓶もかわいかったですね。ウィンブルドン警察もかっこよかったなあ。留置所の冷たくさみしい雰囲気、最高でしょ?白タイルに重い鉄の扉。前に登場した スコットランド・ヤードの科学捜査局 もそうだったけど、タイル張りの味気ない内装ってすごく惹かれます。煉瓦造りの外観も貫禄があっていい。華美な装飾がなくて一目でお役所とわかります。そこに停まっているのは、お! ハンバー・スナイプ じゃん!署の前だとひときわ様になりますねえ。ジャップ警部が専用車で直々にポワロさんを迎えにやって来ました。でもちょっと待って、ポワロさんって不法侵入の現行犯で捕まったんだよね?ちゃんとした手順を踏まずに放免されるなんて、さすが“実在の探偵の中で最もユニークで最高の探偵”ですなあ。
本日のおしゃれ
レディ・ミリセントことガーティは犯罪者なのに根は悪いヤツじゃなさそうで、回転が早くて素直でおしゃれで人好きのする、とっても素敵な女性でした。おっちょこちょいなところもむしろ魅力です。アシーナ・ホテルでポワロさんたちと初対面したときは落ち着いた色気を感じさせる佇まいで、ヘイスティングスじゃなくたって“簡単に”痺れちゃいます。さすが盗みのプロ、変装も百戦錬磨なんでしょう。完璧に貴婦人になりきってましたね。ただあのベールはどうだ?街中にあんな人がいたら逆に目立つし、怪しくてしょうがない気がするんですけど。そしてなにより見た目がヘン。全然かわいくない。当時はあんな格好の人が普通にいたんでしょうか。博物館のガーティは華やかでカッコよくて気丈さも感じられて、初対面のときと真反対の魅力が溢れてました。偽りの姿=おしとやかなレディ・ミリセントはグリーンを、本来の姿=快活なガーティは補色の赤を選んでたのには思わず唸りました。キャラクターのギャップを色の対比で見せる演出は、それ自体がすごく洒落てます。あの赤いワンピースはガーティのスタイルのよさも際立たせてましたね。へっぴり腰で逃げる間抜けな後姿でさえもシルエットが流麗でした。頭が良くて美人でモデルさんみたいなのに、やってるのはケチな強盗ってところもいいなあ。男を惑わして手玉に取る系の犯罪じゃなくて、泥臭い窃盗職人って感じがめっちゃ好感持てます。
一晩かけても中国製の小箱を開けられなかったくせに平気で「ぼかぁメカには強いんですけどねえ」とかいっちゃうボンクラ、ヘイスティングス。彼もなかなかのおしゃれさんなんですけど、いままでそこには触れずに過ごしてしまいました。カラフルな幾何学模様のチョッキとかカントリー風のツイードジャケットとか、見てないわけじゃなかったんだけどね。きっと僕の好みとちょっとズレてるからだと思います。ごめんなさい。今回のヘイスティングスは普段とちょっと違いました。中折れ帽を被ることが多い彼が、茶色のホンブルグハットを被ってたんです。けっこうレアだと思います。なにか心境の変化があったんでしょうか。それとも貴族の女性と会うときの単なる身だしなみ?中折れ帽は労働者っぽいイメージあるもんな。
ジャップ警部に留置所から助け出してもらったときのポワロさんの所持品は、洒落た指輪、眼鏡、そして髭用の櫛。財布や時計を持ち歩かないときでも髭用の櫛は身につけてるんですね。担当のお巡りさんもジャップ警部もあきれ顔でした。紳士とはこうあるべきなんでしょうか。残り少ない髪の毛はけっこう乱れてましたけど、それは気にしないでいいのかな?ジャップ警部とポワロさんが並んで映ると2人の真逆な個性がことさらに強調されて微笑ましいです。今回はそんなカットがたくさん見れました。いつも同じヨレヨレのコート姿でガニ股大股開きのジャップ警部と、シワのないスーツで姿勢よくぴっちり膝を閉じてるポワロさん。
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